取手駅西口では長らく区画整理が続き、駅前にタワーマンションが建つとか取手図書館が移転するとかいう話も聞こえます。何となく市による一連の駅前再開発のように思っていないでしょうか?。しかしそれは違います。以下に、取手駅西口開発について、簡単に解説してみましょう。

 「区画整理事業」(公共事業)と「再開発事業」(民間事業)は、主体も意義も事業費も全く別の事業です。市による公共事業「区画整理事業」は2024年7月の交通広場の完成を以て完了し、民間の「再開発事業」が始まるはずでした。市は建設予定の再開発ビルに「図書館を核とした複合公共施設」を整備するとし、「再開発事業」にも関わるはずでした。しかしそれは2025年2月14日、「停止」と発表されました。

 市の計画やその進め方は適切だったのでしょうか?。また、計画は放棄されたわけではありません。図書館移転にしても、単に「取手図書館を便利な駅前に移し、カフェなどを併設しておしゃれな装いにする」ものではありません。指定管理の導入により、今までの取手図書館の資料や蓄積や活動(いずれも地域の財産です)を放棄し、名前は「図書館」でも似て非なるものに変質してしまう可能性があるのです。

 私たちは、駅前のような公共性の高い場所は、再開発を繰り返して維持していく場所と思っています。しかし今の市の「再開発事業」への関わりかた全般には疑問を持っており、見直しを求めています。私たちは、市民の要請に即した、持続可能な再開発を求めているのです。

●「区画整理事業」と「再開発事業」

 区画整理事業は道路や公園を整備し、住宅などへの利用を促し、ライフラインを整備するなどを目的として行う公共事業です。駅西口の区画整理と交通広場の整備はこれに当たる「市の事業」です。税金で賄われていますが、駅前の道路や景観の整理、交通広場の拡充整備などがなされており、その投資は市民に還元されていると言って良いでしょう。
 区画整理事業では通例、複数の地権者の土地をまとめて整地し、道路・公園・交通広場など公共施設の用地を先取し、道路を造成します。地権者は、残った土地を従前の土地の持ち分で按分した替地を受け取ります。受け取る土地の面積は従前より減りますが(「減歩」という)、土地の利用価値が上がるとされ、損得なしとされます。

 再開発事業(正式には「市街地再開発事業」)は複数の地権者の土地を共同化して高度利用する事業です。「A街区再開発事業」はこれに当たり、区画整理完了後に土地を受け取る8名の地権者が行う民間の事業です。土地の高度利用を謳うため、再開発ビル(21階建てタワーマンションと5階建て非住宅棟を計画)を建て、新たに生み出されたビルの床やマンションの住戸を売却するなどして事業費を賄います。国や市から補助金(原資は税金)が出ますが、事業費は売却益で賄うため、補助金のほとんどは「事業協力者」のデベロッパーに行き、市民には還元されません。
 地権者は従前の土地との「等価交換」という形で再開発ビルの床を受け取ります。ビルは高層のためその総床面積とその総価格は元の土地の何倍にも膨らんでいるので、地権者は土地の大半を手放して(受け取ったビル床の区分所有権が手元に残る)ビル床というやがて損耗してしまう資産(「償却資産」という)と交換することになります。再開発事業では市(市民)も地権者も何の得にもなりません。
 一方ビル床やマンションの住戸は切り売りされ、その敷地には新たに多数の区分所有者が生まれます。特にマンショでは区分所有者の多くが永住者になります。このため、建物の老朽化と共に住人が老齢化し、後年、建物の修繕や建替が必要になってもその費用負担などが壁になって実現できない懸念があり、最終的には廃墟になる可能性まで指摘されています。
 市がビル床を購入(税金を投入)して「公共施設」を整備する場合、ビル床の区分所有権と施設は市のものとなり、市民に還元されますが、購入費はデベロッパーに行くだけです。市は区分所有者としてビル管理に責任を負うほか、ビルが経営的に立ち行かなくなればその後始末を背負うリスクもあります(青森市の複合公共施設「アウガ」に類例)。
 「A街区再開発事業」の施行予定区域は、下図の赤斜線部分約0.6ヘクタールです。A街区の残る部分は再開発事業に加わらなかった地権者に返還され、各地権者の意向に沿って再利用されることになります。A街区の再開発は不徹底で、失敗だったと言っても過言ではないでしょう。

 少子化による人口減少が叫ばれています。取手市も今後人口が減少し、経済規模が縮小していくでしょう。すでに駅前には空きフロアを抱えたリボンとりでビルやアトレがあります。タワマンを含む新たなハコ物は、当初はともかく、どれだけ維持できるのでしょうか。何年か後、取手駅前に廃墟ビル群がそびえていることにならないでしょうか。「A街区再開発事業」は「今だけ」(「金だけ」も?)しか見ていない、持続不能な危うい事業に思われます。

●これまでの経緯

 取手市は、1993年、駅西口北側の土地区画整理事業を開始しました。以来、実に32年の歳月を費やし、8回の計画見直しを経て、220億円(2024年度末見込み)をかけて事業を継続してきました。区画整理事業は2024年7月30日の交通広場供用開始をもって完了しました。その間、駅西口前は、いつ終わるとも知れない工事が延々と続き、商業施設の再生もなく、寂れていきました。

 この間、市は「お金がない」という理由で、保育所の廃止、学校の廃止統合、福祉予算の縮減を繰り返し、道路整備など都市基盤整備事業を後回しにしてきました。今でも保育所や公民館など公共施設を27%削減する計画が進行中です。「お金がない」原因に取手駅西口開発や桑原開発があることは、市の財政部長が2017年9月の市議会で認めています。取手市は区画整理事業を始めとする「開発事業」をダラダラと続け、お金をつぎ込む事により、市民の生活を圧迫してきたのです。

 長い年月・計画見直しの繰り返し・莫大な費用を要した原因はA街区の再開発でした。市は、区画整理事業を開始した時すでにA街区の「再開発事業」を一体の事業として計画に組み込んでいました。本来、再開発事業(民間の事業)では民間の事業者(駅西口の場合は地権者が作る準備組合)が既存建物の解体・整地から新しい建物の建設までを行いますが、市は、建物の解体と整地までの作業を区画整理(公共事業)と一体の事業(「合併施行」と言う)として行ったのです。市に区画整理後に生まれる駅前の一等地を高度利用したいとの意向があったこと、A街区予定地の地権者20名の意向が一致せず、建物解体・移転補償・造成工事などの実施を地権者に求めることができなかったこと、などのためのようです。市は先ず区画整理事業を終わらせ、その後にA街区の再開発事業を行うものとして工事を始めましたが、合併施行としたため区画整理事業と再開発事業が分離できなくなり、再開発の計画が立たないと区画整理の計画が立たない(全体計画が定まらない)状態に陥ったようです。

 しかしA街区予定地の地権者(20名)の意向は一致しないままでした。2013年、工事がA街区予定地に及ぶと、市は、地権者の合意がなく全体計画が定まらないまま、区画整理事業の予算で、やりやすい所から建物解体を始め(事実上、再開発事業の強行)、一部地権者から不興を買ったようです。一方、地権者の側も再開発事業に参加するか否かを決めかねて時間を空費したようです。このため工事は遅れ、計画見直しの繰り返しを強いられました。合併施行としたため区画整理完了まで替地が定まらず、地権者は土地を利用できず、駅前は延々と続く工事のため寂れ、市は工事が遅れた分の補償費の支払い(原資は税金)が膨らみました。補償費は2021年度末時点で95億円を超え、総事業費約220億円の半分近くを占めます。市が地権者の合意形成を怠り、場当たり的に工事を強行した結果、つまり、市が、本来地権者が行うべき建物の解体・整地を肩代わりした上、遅れた分の要らない補償費まで支払った結果が、冒頭の「お金がない」原因だった訳です。

 区画整理事業完了の見通しが付いた2024年2月29日、取手市は「取手駅西口A街区地区第一種市街地再開発事業の概要」をホームページに載せ、ようやくA街区再開発事業計画案の全貌を明らかにしました。参加する地権者は20名から8名に、施行区域はA街区約0.7ヘクタールから上図の赤斜線部分約0.6ヘクタールに減っていました。そこに25階建てのタワーマンションと5階建ての非住宅棟からなる再開発ビルを建設し、市は非住宅棟に床を買い「図書館を核とした複合公共施設」を整備する計画でした(2月29日付資料は【こちら】)。しかしその計画は、折柄の資材高騰、人手不足、円安などの影響を受け、半年足らずで総工費と公共投資額は増額、マンションは25階建てから21階建てに縮小となりました(市の12月1日付「構想(案)」は【こちら】)。

 市は「お金がない」ことを理由に各種の福祉を切り詰めながら、自らの不手際で膨らんだ区画整理関係費用220億円に加えて、更に、民間の、タワーマンションが建設費の大半を占める再開発ビルに、国の補助金を含めれば、その総工費177億円の半額を超える90億円超えの公共投資をしようというのです。改めて繰り返します。「それで良いのですか?」。

 なお、取手駅西口再開発事業にはA街区再開発問題以前にもさまざまな問題が発生しました。しかしそれらについては一応「過去の問題」のため、今後を考えるこのホームページでは、取り敢えず、触れないでおきます。