では、次に、「にぎわい」の問題について考えて見ましょう。

5)「図書館を核」とした複合施設で「にぎわい」を作り出せるか、と言う問題

 図書館は「にぎわい」作りの核となるでしょうか。小池信彦氏(元日本図書館協会理事)は「図書館は地域を支える情報センターであり、賑わいを創出できるかは市民や行政が図書館に何を求め、どのような活動をするかにかかっているのではないか」と指摘されています(5.18シンポジウム講演、参考資料は【こちら】)。積極的な活動によって地域のコミュニティの中心となっている図書館は、小池氏が関わる調布市立図書館をはじめ、あちこちにあるとのことです。「にぎわい」は図書館を持って来ればできあがるものではなく、その後の活動を通じて作り出すもののようです。市は「取手図書館の移設」を図書館関係者にすら諮っていないようですが、「その後の活動」をどうするのでしょうか。指定管理の受託企業に丸投げするつもりでしょうか。

 取手図書館は「とりで図書館まつり」をはじめ各種の活動を行い、その時々に「にぎわい」を作り出す一方、平時には読書にふさわしい静穏な環境を保持して利用者を受け入れています。文教施設である図書館が作り出す「にぎわい」には動静があり、商業施設の「いつでも人が群れている」ような「にぎわい」とは性質が違うように思われます。市は「図書館を核とした複合公共施設」にどのような「にぎわい」を期待しているのでしょうか。
 施設内には図書館の他、カフェ・オープンテラス、イベント空間、音楽スタジオ・会議室、多目的ラウンジ、が併設されるとのことです。これらの施設はいずれも騒音源となりかねず、図書館の静穏な環境を損なうことを危惧します。イベントなどの開催時には「人が群れ」て騒々しく、それ以外の時は目的のない人は来ないように思われ、商業施設型の「にぎわい」は期待しにくいでしょう。「滞在型」の施設とのことなので、「カフェワーカー」(カフェなどに居座ってパソコン仕事をする人)に占拠されてしまうかも知れませんね。

 複合施設に指定管理が導入されれば、受託企業はたいてい営利企業ですから、商業施設型の「にぎわい」を演出しようとするでしょう。図書館も含め施設まるごと「にぎわい」演出や商業活動に駆り出される事も考えられます。図書館が客寄せの道具として使われる訳です。実際、類例があり、公立図書館としての機能や公共サービスがひどく損なわれたようです(前ページ「取手図書館はどうなるのでしょうか?」の資料参照)。受託企業は有期契約なので、儲けが出なければ撤退できます。図書館という公教育機関を、最終責任を負わない(負えない)運営者に委ねることは、常識的にどうかと思います。

 図書館が西口駅前に来れば「便利になって良い」という意見はあります。新たに江戸川学園在校生やタワーマンションの住人の利用も見込めるでしょう。一方、図書館自体は無料で利用できますが(図書館法第17条)、駐車場、駐輪場、併設施設などに課金され、実質的にお金がかかるようになる可能性があり(特に指定管理になった場合)、「お金をかけてまで図書館には行かない」との意見も聞きます。利用者が集まるかどうか、「にぎわい」が生まれるかどうかは、施設の運営方針にも大きく影響されるはずです。

 市は、この施設の主な利用者を「取手駅を利用」する「学生や市内企業従業員等の若い世代」とし「取手駅前に滞在してもらうことを目指す」としています(「取手駅西口A街区再開発ビル内複合公共施設整備事業」2ページ(7)【ターゲット設定】、原本は【こちら】)。しかしその人たちは通勤・通学で取手駅を利用する訳で、施設を利用する機会は実質的には休日かウィークデーの終業後、帰宅までの短時間になり、休日以外「滞在」は難しいでしょう。施設の利用実績や「にぎわい」作りに資するとは思えません。市のターゲット設定には無理があり、「為にする」議論かとも思われます。

 若い世代を図書館利用者に呼び込むことは良いと思います。しかし若者受けを狙うのは問題です。図書館は小児から高齢者まで広く利用しており、誰でも利用できることが重要です。取手図書館でも藤代図書館でも、ウィークデー日中の図書館利用者には高齢者が目立ちます。市は「市民サービスが不足している」分野の一つに「生涯学習を支援する機能」があることを認めていますが(上記資料2ページ(6)【条件整理】)、図書館はその機能を辛くも果たしている訳です。選書が偏るなどして、児童や高齢者の足が遠のけば、利用は伸びず、「生涯学習を支援する機能」は更に損なわれます。
 なお、守谷図書館では、図書館に指定管理を導入したことで「教育機関、生涯学習の拠点としての取り組みが弱く」なったことを指摘しています(前ページ、参考資料7.)。指定管理導入の弊害として特記しておきます。

 以上、「図書館でにぎわいを作り出せるか」という観点からも、市の構想には見直すべき点が多々ある様に思われます。

 次に、「にぎわい」作りについて、別な観点から見ておきましょう。

 「取手とうきゅう」が開業した1985年頃、取手駅西口駅前はにぎやかな商業地域でした。しかしいつの間にか寂れ、「りぼんとりでビル」や「アトレ」は空きフロアを抱えて苦戦していると聞きます。その原因には長期不況やつくばエクスプレス開業による取手市の地位低下などがあるでしょう。しかし東口駅前に比べても西口駅前の衰退は著しいように見えます。西口駅前は「にぎわい」作りに失敗しているのです。

 そこへこの「A街区再開発事業」です。この事業はかつての商業地域の一画をタワーマンションと非住宅棟に置き換えるものなので、非住宅棟とマンションの一部を活用して商業地域を再興し、民間サイドで「にぎわい」を復活させようという選択もあり得たはずです。にもかかわらず、市が非住宅棟の床の半分以上を買い、「図書館を核とした複合公共施設」を整備し、「にぎわい」を作り出そう、というのです。民間サイドでの「にぎわい」作りを諦めている訳です。A街区では商売にならなず「にぎわい」の芽はないという判断でしょう。市のいう「にぎわい」作りはもともと無理があり、非住宅棟の床取得のための「言い訳」のように思えます。

 タワーマンションが建てば、駅前に200世帯分(計画縮小で減るようですが)の住人が増え、生活空間としての「にぎわい」が復活するでしょう。しかしそれはせいぜい20年のこと。住人は同時に年を取り、駅前はやがて老人の町になるでしょう。その間に桑原開発が成功すれば、取手市としてはハッピーでしょうが、駅前をはじめ「まち」の「にぎわい」はそちらに持って行かれるでしょう。そしてその「にぎわい」もせいぜい20年。その間に市の人口減少と高齢化は進み、経済規模は縮小し、再々開発が難しくなっている可能性は高いのです。「A街区再開発事業」や「桑原開発」などの大規模開発は、取手市に必要な事業なのでしょうか、それらを続けて取手市は「持続可能」なのでしょうか。

 そこで改めての疑問です。市は西口駅前が寂れた原因をどのように考えているのでしょうか。「図書館を核とした複合公共施設」の整備はその上での対策なのでしょうか、それは適切なのでしょうか。建物の寿命は数十年あり、その間、駅前の姿を固定しますが、西口駅前の将来の推移をどのように予測し、どのように対応する予定なのでしょうか。市は、これらについて、市民の疑問に答えていくべきだと思います。もちろん、将来のことなので、ハズレは多々あるでしょう。しかし、市と市民のやりとりは、両者が共に「歩きながら考える」ために必要なプロセスだと思います。

 私たちは、先ず、A街区の再開発ビルに床を買い「図書館を核とした複合公共施設」を整備する計画について、市は市民に説明し、質疑に応じることを求めます(【私たちの主張・提言】)。私たちのささやかな疑問はこのホームページに提示しました。市は、税金を使う事業について、市民に説明する義務があると思います。その上で、一度立ち止まり、計画を見直してみることを提案します。