では、次に、図書館に関する市の「方針」の問題点を見ていきたいと思います。
3)その「図書館を核とした複合公共施設」の運営を指定管理にする、という問題
先ず、取手市には「図書館に指定管理を導入しない」と言う申し合わせがあります。お隣の守谷市は、かつて図書館に指定管理を導入してそのサービスが著しく悪化し、混乱の末、市直営に戻しました。取手市ではその経験に学んで冒頭の申し合わせを行ったのです。市の「方針」はその申し合わせの一方的な破棄宣言に当たります。「申し合わせの一方的破棄」は「図書館を指定管理にする」こととは別個の問題であり、私たちは容認できません。申し合わせを遵守し、指定管理導入の「方針」は撤回して頂きたい。私たちは、公立図書館を指定管理に委ねることに反対です。
では、続いて反対の理由を明らかにしていきましょう。
指定管理とは公共施設の管理運営を民間企業に委託すること、公設民営化することです。民間企業のノウハウを行政サービスに生かし、その質を高めるという名目があります。しかし公立図書館を指定管理に委ねることには基本的な問題があります。公立図書館は公共施設であり、無料で専門性の高い定型の公共サービスを安定して提供するところですが、企業は経営の自由を駆使して短期の利益を求めるところなので、反りが合いません。「図書館は指定管理になじまない」のです。このことは政府閣僚も明言しています(2011年1月、片山総務大臣)。
では図書館とはどういうものでしょうか。図書館は「図書館法」(社会教育法の下位法)に基づいて設置、運営されています。その第三条(図書館奉仕)には、図書館資料(書籍を含む多様な資料)の収集と公開、その利用の支援、読書会などの各種活動、学校ほか研究教育機関との協力など、9項目程の実施に努めることが定められています。また、第十七条(入館料等)には「いかなる対価をも徴収してはならない」ことが定められています。貧富の差で図書館の利用が差別されてはならないからとされています。
つまり、図書館は専門的な公教育機関、「地域の情報センター、社会教育の拠点、生涯学習の場、自己研鑽の場、市民の書斎」(小池信彦氏:5.18シンポジウム講演、参考資料は【こちら】)なのです。「タダの貸本屋」なのではなく、その公共サービスの一環として蔵書を貸し出しているのです。その仕事は本を借りるだけの利用者に見えているよりずっと広いのです。取手図書館も開設以来、資料の収集や活動に努め、職員の専門性を高め、実績を積み重ねてきたはずです。その蓄積すべては取手市民の共有財産(コモン)です。
ただ、残念ながら、以上のことは広く理解されているとは言えず、図書館の評価は不当に低いと思われます。図書館側からの発信が望まれます。
指定管理は図書館になじみませんが、自治体にすれば、図書館を指定管理にすると指定管理料を払う代わりに人員を削減でき、施設管理の面倒からも解放されます。このため「経費削減」を理由に指定管理を導入するケースが相次いでいるようです。自治体が、自らの責務である、図書館をはじめとした住民の共有財(コモン)の維持管理を放棄しつつあるようで、その事自体も問題です。
指定管理を導入した公立図書館にはさまざまな問題が報告されています(参考資料1.〜6.)。原因として、受託企業側には、指定管理料以外の収入を得にくく収益が低いこと、「経営」が先立ち「公共」の感覚に乏しいこと、図書館運営のノウハウに乏しいこと、などがあり、自治体側には、契約期間が短く運営が一定しないこと、責任分担があいまいで監督が行き届かないこと、などがあるようです。委細は参考資料に譲りますが、指定管理導入の結果をかいつまんでまとめると、●多くの場合経費削減にならない、●職員の質が確保できず、従来の公共サービスの多くに対応できない、●職員の待遇が劣悪、ということになるでしょうか。自治体も、利用者も、そこで働く職員も、誰の得にもなっていないのです。
それどころか、大規模な現状変更、郷土資料など既存の図書館資料の大量廃棄、などで問題になったケースすらあります(参考資料3.4.)。郷土に関する資料などは市民ばかりか地域の共有財産でもあり、二度と手に入らないものもあり、廃棄されたら取り返しがつきません。うかつに業者を選ぶと、図書館の公共の機能が損なわれるばかりでなく、貴重な蓄積まで破壊されかねないのです。
守谷市では、2016年度から中央図書館に指定管理を導入しましたが、その直後から熟練の館員が次々に辞め、館員の質が低下して従来の図書館サービスが継続できなくなるなど、さまざまな混乱が起き、2019年度から指定管理をやめ、市直営に戻しました。その理由には「スタッフの質が保てない」「学校図書館の支援ができない」「教育機関、生涯学習の拠点としての取り組みが弱い」など、一般利用者には見えにくい事項が並びます(参考資料7.)。受託企業は業界大手で実績があるとされる会社だそうですが、それでも公立図書館本来のサービスは提供できませんでした。公立図書館の管理者としてそのサービスを代行できる企業はない、と考えるべきでしょう。
以上の通り、公立図書館に指定管理を導入することで、従来の図書館のサービスが崩壊し、蓄積が破壊され、戦後維持されてきた公共図書館の理念・根幹が破壊される可能性があります。一方、受託企業の方は、3年なり5年なりの有期契約ですから、儲けが出なければ一切を放棄して撤退できます。図書館は公教育機関であり、無責任な運営者に委ねて良いものではありません。このため、私たちは、図書館の運営に指定管理を導入することに反対です。
指定管理が導入されたとしたら、それはそれで別な問題があります。図書館の運営主体が取手(指定管理)と藤代(市営)で別になりますが、今までの「取手市立図書館」としての統一的な図書館サービス、例えば「ほんくる」などは安定して継続されるのでしょうか、取手図書館の図書館資料、公共サービス、独自のイベントなどはちゃんと引き継がれるのでしょうか、「読み聞かせ」などのボランティア活動は続けられるのでしょうか。これらのサービスや活動が損なわれるなら、それらは図書館利用者に対する「不利益変更」にあたります。
カフェを併設する、開館時間を延長する、育児コンシェルジュを置く、など、指定管理下で高評価を得た追加的サービスは指定管理でなくとも可能なはずです。現に守谷中央図書館は、市直営でありながら、休館月一回・開館時間9:00〜19:00を実現しています。取手市には、図書館資料の保全を含め、現行の図書館サービスを破壊するような選択はしないで頂きたいと思います。
参考資料
1.https://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/seisakukikaku/takeda20230213kiso.pdf
2.3be564f9.jimcontent.com › name
3.https://tomonken.org/statement/ccc/
4.https://totomoren.net/officialwp/wp-content/uploads/20220501tsutayalib-now_vol.3.pdf
5.http://bookserial.seesaa.net/article/432339235.html
6.http://bookserial.seesaa.net/article/438625664.html
7.https://www.city.moriya.ibaraki.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/019/tousin-unei.pdf
4)文教施設である図書館を(駅前に)移転する、という問題
さて、次に、前ページで挙げた、問題4)について考えてみたいと思います。
公立図書館は「文教施設」であり、その運営は「文教行政」です。図書館を移設したり廃止したり指定管理にしたりするならば、教育委員会と図書館協議会が討議検討して答申し、市議会で条例を改定する必要があるはずです。市の一存で移設や廃止を「決定」するものではないはずです。「方針決定」は無効であり、手続き違反です。残念ながら教育委員会も市議会も市の「方針決定」にものを言えないようですが、しっかりして頂きたいものです。
公立図書館は「文教施設」であり、風俗営業法(風営法)により近隣での風俗営業(パチンコ店を含む)が規制されます。「リボンとりでビル」にはパチンコ店が入っており、「図書館を核とした複合公共施設」はその筋向かいに整備することになります。では、それで良いのでしょうか?。風営法上は、文教施設が後から風俗施設(この場合はパチンコ店)の近くに移転して来るのであれば、問題はないのだそうです。しかし法的に問題はなくとも風営法の理念とは相容れません。「取手市では図書館をパチンコ店の向かいに持ってきた」となれば、市の文教行政の「質」、市のレベルを問われ、取手の「まち」のイメージを損なうのではないかと危惧します。
都市計画法では「再開発」が住民の福祉向上に寄与することを定めています。では、今、図書館を駅前に移設することは住民の福祉向上に寄与するでしょうか。住民の切実な要求でしょうか。市の資料(【こちら】)によれば「方針」はA街区の地権者からの「多くの市民が集う場となる公共施設を整備してほしい」との要望を機に定まったとあります(1ページ)。地権者も市民ですが、多くの市民が「図書館の移設」を求めた訳ではありません。市は図書館利用者にアンケートした結果決めたとしていますが、問題が多く、根拠にするのは乱暴です(【こちら】を参照)。
もちろん「図書館は駅前にあるのが便利で良い」という意見はあります。しかし一方「図書館の本は駅前でも近所の公民館でも受取・返却できる。交通費をかけてまで図書館には行かない。そんなお金があるなら地域の公民館の図書室を拡充してほしい」という声もあります。図書館の利便性を高めるのなら、むしろ図書館や分館(公民館の図書室でも良いでしょう)を計画的に整備する方が良いのではありませんか。
以上、取手図書館の移設は、市民が切実に求めたとも言えず、さして便利になる訳でもなく、取手市の評判を貶めることにもなりかねません。これを、市の一存で巨額の税金を投じて行おうとすることには、大いに疑問を感じます。