取手市は1993年に取手駅西口北側の「区画整理事業」(公共事業)を開始し、実に32年、220億円(2024年度見込み)をかけ、昨2024年7月30日の駅前交通広場の供用開始をもって実質的には完了しました。これだけの時間とお金がかかった原因は、市がA街区(仮設交通広場だった敷地)の地権者の合意形成を怠り、計画が定まらないまま工事を進め、計画変更を繰り返したためです。いつまでも終わらない工事で西口は寂れていきました。また、総事業費の半分近くは地権者への移転補償費ですが、そのかなりの部分はきちんと計画を立てておけば払わずに済んだお金です(詳しくは【駅前開発 簡単な解説】参照)。
市はこの事業や桑原開発などの開発事業にお金をつぎ込んだ結果、財政逼迫に陥り、「お金がない」ことを理由に保育所の廃止、学校の統合・廃止、福祉予算の縮減、道路整備など生活基盤整備を先送りにし、市民生活を劣化させてきました。「公共施設27%削減計画」は今も進行中で、明日にも近所の公民館が廃止されるかも知れないのです。
もはや過去の問題なので詳しくは触れませんが、西口開発ではB街区、C街区でも議会請願、監査請求、住民訴訟が繰り返され、当初計画を覆してのウェルネスプラザ建設(保健センター移転)強行など、多くの問題が起こっています。
そこへ2024年3月15日、市は「広報とりで」で次のように発表しました:A街区に建設予定の再開発ビル(25階建てタワーマンション+5階建て非住宅棟)の非住宅棟に床を買い、「図書館を核とした複合公共施設」を整備し、取手図書館を廃止する「方針を決定」した。(広報とりで3月15日号は【こちら】、私たちの解説は【こちら】)。市はその「方針」や根拠となった資料を2024年2月29日付でホームページに公開はしていました(資料は【こちら】)。しかしその資料は見つけにくく、方針も30年以上前の区画整理事業開始の頃の計画をベースにしたものでした。
その発表は一般市民はもとより図書館関係者も寝耳に水で、当惑した人も多かったようです。そして果たしてその「決定」の過程も「方針」の内容も問題だらけです。問題は相互に絡み合っていますが、おおむね次のように分けらるかと思います。
1)この「方針」は、いつ・誰が・どのような権限に基づいて「決定」したのか、有効なのか、という問題
2)再開発ビルの床を買って公共施設を入れる、という問題
3)その「図書館を核とした複合公共施設」の運営を指定管理にする、という問題
4)文教施設である図書館を(駅前に)移転する、という問題
5)「図書館を核」とした複合施設で「にぎわい」を作り出せるか、という問題
6)そもそも駅前の一等地の再開発がこれで良いのか、という問題
私たちはこれだけ問題を抱えた「方針」が、何を問われることもなく実施されようとしていることに、強く疑問を感じています。そのため、市には「一度立ち止まって計画を見直す」よう提案しています。私たちは3)の問題に対しては明確に反対ですが、それ以外の問題への答えを持っている訳ではありません。市政の主役は市民です。先ずは市民の皆さんに私たちの疑問を示し、皆さんと解決策を模索し、市政への一助になれば、と考えています。
以下、トップページの4枠で問題1)〜6)の委細をお示しします。
その後、計画の具体化のため、2024年12月1日から2025年1月10日までパブリックコメントの公募が行われ、その資料として初めて計画の全貌が公開されました(資料は【こちら】)。資材高騰、人手不足、円安などの影響を受けて予算が膨れたため、タワーマンションの階数と構造の他、幾つか変更点がありますが、実質的には2024年2月29日付の資料と大きな変更はありません。
1)この「方針」は、いつ・誰が・どのような権限に基づいて「決定」したのか、有効なのか、という問題
この「方針」が「方針案」ならば問題は感じません。しかしこの「方針」では都市計画決定(都市計画法に基づき計画を確定する手続)のスケジュールまで「決定」しています。その「方針」の当否はいつどこで検討されるというのでしょうか。まさに独断専行と行って良いでしょう。動くお金は市民の税金であり、図書館は市民の共有財産です。この「方針決定」については市議会も教育委員会(図書館を管轄)もだんまりを決め込んでいます。しかし私たちは市民として、市のこのやり方に納得していません。また、「方針」の内容にも2)以下の問題を感じています。市には、事の経緯と「方針」の内容を市民に説明し、質疑に応じる義務があると思います(もう少し詳しく【こちら】)。
2)再開発ビルの床を買って公共施設を入れる、という問題
この問題については次のような点が指摘できます。なお、この件については【駅前開発 簡単な解説】でも触れています。ご覧頂ければ幸いです。
第一に、市は、タワーマンション(売り払ってしまう)が主体となる総工費177億円の民間ビルに48億円の補助金(但し半額は国が援助)と43〜48億円の床購入費+施設整備費、計約90〜100億円の公共投資をすることになります。「お金がない」と言って公共施設を27%削減している中、100億円近くをかけて民間のマンション建設を補助し、床を買って(これも一種の補助金)新しい公共施設を作る、それは適切なのか、その財政上の皺寄せはどこへ行くのか(どこかの公共施設の廃止か?)。しかもそのお金はほぼ全て「事業協力者」のデベロッパーに行き、市(市民)にも地権者にも還元されません。
資材高騰・人手不足・円安などは更に進行しています。今後、総工費は更に膨らむはずです。こんな計画で良いのですか?。
第二に、非住宅棟に床を買うことにより、市はビルの区分所有者となり、ビル管理の責任の一端を負います。ビルが経営破綻すれば恰好の区分所有者として後始末を押しつけられるでしょう(他の自治体にその類例あり)。それで良いのでしょうか?。近隣では既にリボンとりでビルやアトレが空きフロアを抱えて苦戦しています。
第三に、そもそも駅前になぜいま公共施設が必要なのでしょうか。公共施設が必要だとして、なぜそれが新築の再開発ビルでなければならないのでしょうか。リボンとりでビルにもアトレにも空きフロアはあります。また、公共施設が必要だとして、なぜそれが図書館なのでしょうか。音楽ホールでも美術館でもでも良いのではありませんか(ウェルネスプラザのホールの音響設備は水準が低く音楽に向かないと聞きます。また、取手市は藝大生の卒業制作を多数購入・保有しています)。また、駅前を繁華な商業地域にしたいなら、市のキャンペーン施設でも物産館でも良いのではありませんか。
再開発事業は地権者の事業ですから、地権者の意向が尊重されるのは当然のことです。しかし、駅前という公共性の高い場所の利用法として、これで良いのでしょうか。「再開発」の結果は長年にわたり駅前の状況を固定します。問題6)と絡むので「開発より生活重視で『持続可能』な取手市を」の項で触れますが、今後の人口減少・経済規模縮小を見据えたとき、この「再開発」が将来の取手市の負の遺産になることを危惧します。将来の再々開発を困難にしない、持続可能な再開発を考えるべき時が来ているのではないでしょうか。
以下、問題3)、4)については「取手図書館はどうなるのでしょうか?」、5)については「それで駅前に『にぎわい』は復活するのでしょうか?」、6)については「開発より生活重視で『持続可能』な取手市を」で検討します。ご参照下さい。